動物の遺伝子組換えは、従来の育種・繁殖技術では到達できなかったようなレベルの動物の改良を可能にします。疾患モデル動物の開発や臓器移植・再生など医療への応用、乳肉など畜産物の質や量を改善すること、動物へ環境適応性・抗病性を付与すること、薬剤原料となる生理活性物質などを乳の成分として生産させることなどが、世界中で活発に研究されています。
当研究室では、糖尿病を発症するブタの作出に世界で初めて成功し、疾患モデルとして研究用に提供するための量産体制を実現しました。この糖尿病モデルブタは、若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因遺伝子である変異型ヒトHepatocyte Nuclear Factor-1 遺伝子を導入したトランスジェニックブタであり、定常的な高血糖状態を示すだけでなく、糖尿病性腎症、白内障、網膜症などの合併症を発症します。バイオ人工膵島など、糖尿病治療を目的とする新規療法・デバイス開発などの前臨床的研究に有用です。
その他にも、 マルファン症候群 、 重症複合免疫不全症 、先天性代謝異常症、拡張型心筋症、多嚢胞性腎症などの、遺伝性難治性疾患のモデル開発に成功しています。
ヒト変異型肝細胞核因子(HNF-1α)遺伝子の導入による糖尿病モデルブタの作出DNAを頭部に付着させた精子を、卵にマイクロインジェクション(顕微授精)することで、遺伝子組換え受精卵を作ります。そのような受精卵を借り腹雌に移植すると、遺伝子組換え個体が誕生します。
精子ベクター法によりオワンクラゲ由来の緑色蛍光遺伝子を導入された遺伝子組換えマウス。皮膚が蛍光を発する。
細胞への遺伝子組導入と体細胞核移植の組み合わせによって、トランスジェニック・クローン個体の大量生産に取り組んでいます。
当研究室では、体細胞クローニングの際に赤色蛍光タンパク(クサビラオレンジ)遺伝子を導入することで 赤色蛍光に輝くブタ を作出することに世界で初めて成功しました。このブタを細胞や組織の移植研究に利用することにより、移植された細胞・組織の動態やホスト個体の反応を把握することができます。従来から利用されていた緑色蛍光タンパクであるGFPを組み込んだブタは世界で数グループが作っていますが、赤色蛍光ブタは存在していませんでした。赤色蛍光(クサビラオレンジ)は緑色蛍光(GFP)よりも波長が長いため、細胞の追跡やイメージングに有利なのが特徴です。