遺伝子組換え動物(Transgenic Animal)

研究課題

1)  病態モデルブタの創出

ブタは生理学的、解剖学的、病理学的にヒトと似ている事、また体の大きさがヒトに近い事から、大型動物モデルとして医療研究分野で注目されてきました。これまで遺伝子組み換えのネズミ類はいましたが、大型動物の遺伝子組み換えモデルはいませんでした。近年の遺伝子操作技術、発生工学技術の進歩により、遺伝子改変ブタの作出が可能となり、それらを新しい治療方法や新薬の開発に利用することも注目されています。当研究室では、糖尿病を発症するブタの作出に世界で初めて成功し、病態モデルとして研究用に提供するための量産にも取り組んでいます。この糖尿病モデルブタは、若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因遺伝子である変異型ヒトHepatocyte Nuclear Factor-1 遺伝子を導入したトランスジェニッククローンブタであり、このブタは、糖尿病の診断基準である「随時血糖値200mg/dl以上」の血糖値を示し、 経口糖負荷試験でもヒト糖尿病患者と同じ血糖値推移を示しました。(インスリン産生能力が低い) この糖尿病モデルブタはインスリン投与による血糖コントロールが可能なので、長期間生存させることも可能です。また、恒常的に高血糖値を示す事から、糖尿病治療薬の開発、糖尿病治療を目的とする新規療法・ティバイス開発、膵臓(膵島)の移植・再生医療などの前臨床的研究に有用です。現在、糖尿病発症ブタの精子保存に取り組んでおり、精子凍結保存が完成した際には、糖尿病発症ブタを実験動物として大量供給することが可能となり、同時に糖尿病発症大型実験動物としての系統が樹立されることになります。

■日本経済新聞 2009/09/07

「ヒト遺伝子で糖尿病ブタ」

明治大学の長嶋比呂志教授らとバイオベンチャーのバイオス医科学研究所(神奈川県平塚市)は人の遺伝子を使い糖尿病のブタを作ることに成功した。人の糖尿病のような症状の表れる大型動物は初めて。新薬の効果や安全性を調べるのに役立つ。今秋から人工的に繁殖し量産を始める。来年にも製薬会社と協力して治療薬の開発につなげる考えだ。ブタに使ったのは、膵臓で血糖値を下げるインスリンを作るのに必要な遺伝子。この遺伝子に異常があるとインスリンがうまく作れず糖尿病になる。この遺伝子の変異型をブタの精子に加えて受精させ子宮に移植、子ブタを得た。いずれも高血糖になった。人と同様にインスリンを投与したところ、血糖値が下がった。糖尿病ブタの開発は新薬開発などを後押しする。薬の研究では成長が早いマウスが主に使われるが、体重や寿命が人と大きく違い薬効や安全性を確認するのは難しい。人間に近い大きな動物を使ることが課題になっていた。再生医療の開発を加速させる可能性もある。様々な臓器・組織を構成する細胞に育つ新型万能細胞(iPS細胞)などを使って作った膵臓の細胞をこのブタに移植し、効果や安全性を確認できるという

 

精子ベクター法によりオワンクラゲ由来の緑色蛍光遺伝子を導入された遺伝子組換えマウス。皮膚が蛍光を発する。

精子ベクター法によりオワンクラゲ由来の緑色蛍光遺伝子を導入された遺伝子組換えマウス。皮膚が蛍光を発する。

2)  精子ベクター法の開発

DNAを頭部に付着させた精子を、卵にマイクロインジェクション(顕微授精)することで、遺伝子組換え受精卵を作ります。そのような受精卵を借り腹雌に移植すると、遺伝子組換え個体が誕生します。

オレンジ胎子と細胞

サンゴ由来の赤色蛍光蛋白(クサビラ・オレンジ)遺伝子を導入されたトランスジェニック・クローンブタ胎仔(左)。全身がオレンジ色の蛍光を発し、その細胞(右)は優れた再生医学研究材料となる。

赤色蛍光に輝くブタの作出

当研究室では、体細胞クローニングの際に赤色蛍光タンパク(クサビラオレンジ)遺伝子を導入することで赤色蛍光に輝くブタを作出することに世界で初めて成功しました。この蛍光マーカーを移植に利用することにより、同じクローン集団内で遺伝子改変を行っていないブタと、遺伝子改変を行った病態モデルブタそれぞれにおいて、移植した細胞・組織の分化、動態を把握することができ、遺伝子発現を追跡することが可能となります。従来から利用されていた緑色蛍光タンパクであるGFPを組み込んだブタは世界で何グループも作られてきましたが、赤色蛍光は存在していませんでした。赤色蛍光(クサビラオレンジ)は緑色蛍光(GFP)よりも波長が長いため、細胞の追跡やイメージングに有利なのが特徴です。
赤色蛍光ブタの組織や細胞を使って細胞移植・組織移植などの際の細胞追跡を容易にすることができ、この技術を病態モデルブタに組み込むことで、高付加価値な病態シミュレータが実現することになり、再生医療の検証、製薬開発を推進することが可能になります。